人は毎日いくつもの習慣を積み重ねて生活をしています。
そして一度身についた習慣を変えるには意識が必要です。
良い習慣を取り入れるのも、悪い習慣を断ち切るのも、すべては自分次第。
自分の意識で変えることができます。
私自身、今では当たり前になっている習慣が以前は全く違っていたこともあります。
遡ること20数年前。
20代前半だった私は大阪の朝日放送でラジオ番組のアシスタントを務めていました。
メインのキャスターは元近鉄バファローズの投手だった佐々木 修さん。
当時、野球のナイター中継の前にラジオ番組があり、そこでご一緒させていただいていました。
ある日のこと、番組前の打ち合わせが終わりスタッフが席を外して2人になった時に、佐々木さんがゆっくりと話し始めたのです。
「さっき車で信号待ちしてたんよ、すぐそこの信号でね。」
普段通りの落ち着いたトーンで話し始めた佐々木さん、何か面白いことがあったのかなと耳を傾けていると話は思わぬ展開になりました。
「車の中からね、ふと外を見たら一人の若い女性が慌てて走って来てね。
信号が赤に変わったのにキョロキョロって見てそのまま渡ってしまったんよ。」と。
私はそこで話の意図に気づき、思わず気まずくなって照れ笑いをしてしまいました。
もうお分かりですよね。
急いでいた私が赤信号を渡ったのをしっかり見られていたのです。
その後に佐々木さんはこう続けました。
「誰がどこで見てるかわからんよ。
特に人前に出る仕事をしてるんやからね。
テレビやラジオで良いこと言ってても普段は信号無視とかする人なんやと思われるよ、たまたまでもね。
99%は信号無視はしない、100回に1回やったかもしれない。
でもその1回を見た人には平気で信号無視をする人やと思われるかもしれんよ。」と。
おっしゃる通りです。
当時の私はそこまで考えられていませんでした。
信号が赤に変わったことにはもちろん気づいていたのに、車が来ていないからとそのまま渡ってしまった。
そして正直に言うとそれは100回に1回のことではありませんでした。
誰かが見ているかもなんて考えもしなかったのです。
この時佐々木さんが見て見ぬふりをして何も言わずに黙っていたら、もしくは信号無視に対して何も感じない人だったら、私は自分の悪しき習慣に気づかずに過ごしていたかもしれません。
この日以来私は、いつどこで誰に見られているかわからないという意識を持つようになりました。
それは、誰かが見ているからちゃんとしようというものではなく、誰かに見られて恥ずかしい行動をしたくないと思うようになったからです。
赤信号で止まる理由は、車が来るからではなく信号が赤だから。
そんな当たり前の思考が習慣付いていなかった当時の私。
人前でも常に堂々としていたい。
胸を張って美しく生きていきたい。
そう感じるようになり、自分で改善したいと心から思えば悪い習慣もすぐにやめることができました。
ひとから言われてもそこに何も感じなければ変わらないかもしれません。
この時の佐々木さんの伝え方がすごくお上手だったんですよね。
私の胸に残るような伝え方をしてくださったんです。
私の行う研修の原点がここにあります。
受講者の方が学んだことを実践したくなるように導くのです。
そのために欠かせないのはやはり習慣化です。
学んだことを自分の中の「当たり前」にするのです。
お先にどうぞの精神がない人は無意識にお客様の前を自分が先に横切ってしまうかもしれません。
日頃からそういう精神が習慣化されていないからです。
名前を呼ばれて返事をする習慣がない人は、お客様から声をかけられた時にまず返事をするという反応ができません。
意識をしている時はうまく振る舞えても、忙しい時や不測の事態に人は習慣的な行動や思考が現れるものです。
咄嗟の行動には習慣以上のものは決して現れません。
私は接客業の方への研修を行うときに、対お客様への行動という枠組みで考えないようにしています。
大切なのは「お客様」ではなく「ひと」に対してどのような思考を持ちどのような行動をとるのか。
「お先にどうぞ」も「返事をする」も最初は意識的に1週間続けてみてください。
相手が誰であってもそれを続けていると次第に無意識の行動になります。
私のように悪習慣を改善するのも同じことが言えます。
ひとが見ているか否かに関わらず意識的に1週間やめてみてください。
習慣化されるとそれが当たり前になり少しずつ思考が変わっていくのです。
どんなに些細なことでも美しい振る舞いや思考が習慣化されると、見た目の印象も美しく変化を遂げます。
そうやって手に入れた美しさは歳を重ねても消えることがなく、一生物のスキルとなってあなたを守ってくれますよ。
私の研修を受けてくださった方々が美しく輝いてほしい。
20代の私に大切なことを教えてくださった佐々木 修さんへの感謝の意味も込めて、ひとの心を動かす伝え方を今後も心がけていきたいと考えています。